有限会社 浅井製作所
クリエーター界の救世主
筆者の友人に電子楽器を自作して販売している人がいる。
「ねじ」が必要となり、ある町工場に発注しようとしたら、1本10円で1万本から受け付けると言われた。ほしいのは数百本なのに10万円かかってしまうのか、と落胆した。
そんな時、インターネットで調べて辿り着いたのが浅井製作所のホームページだった。そこには太字でこう書かれてた。
《当社在庫品を、最低ロット「200本」より1本単価「4円」にて小売り致します。》
救世主を発見したと喜び、彼は早速浅井製作所にメールした。サイズを指定してこれこれこういう用途でねじを探していると。ついでに「かっこいいのがほしい」というメッセージも添えた。
社長の浅井英夫さんは、それならこういうのがあるよと、素敵なねじをお薦めしてくれた。こうして彼は最適なねじを格安で手に入れることができた。
浅井製作所は草加市谷塚上町にあるねじを作る工場だ。1日40万本の大量生産に対応できる、日本の産業界の一端を担う企業である。
と同時に、上記の例のように個人でものを作る人、少量のねじを必要とする人にとっての救世主のような存在でもある。
釣り関係、ロボット関係、音楽関係、模型など、マニアックな世界の多くのクリエーターたちが、浅井製作所のネット販売を利用している。
とくにロボットクリエーター界では「浅井製作所を知らないのはモグリだ」とさえ言われている。
ここ数年、草加ふささら祭りと同日開催の「商工会議所まつり」でロボットプロレス大会が開催されている。なんと二足歩行ロボットがプロレス技を掛け合う。ロボットの技術の進歩と普及に驚かされる大会だ。この大会に全国各地から集結するロボットは、ほとんどすべて浅井製作所のねじを使用しているという。
草加ものづくりブランドの平成19年度認定製品に同社の「小型ヒューマノイドロボット仕様低頭ネジ」がある。このねじ、頭部分がかなり低い。
「二足歩行のロボットは小さいため可動部分に隙間があまりないので、締めたときに頭が低いほうがいい」と考えて、浅井さんが考案したねじである。
小ロット販売の新しい市場を形成
浅井製作所は浅井さんのお父さんが1968年に足立区で創業し、翌1969年に草加に移転した。
日本の高度成長期に、工場はフル稼働した。
「あのころは『とにかく作れ』という時代でした」と言う。「そのころを知ってる年代の方は、景気は戻るっていう頭がまだどっかにあるようです。うちらはそんなの経験してないですから、戻るわけねえじゃん、って(笑)」
浅井さんは高校を卒業してすぐ入社。30年近く前だ。そしてお父さんが心臓を患ったのを機に1996年に社長職を継いだ。お父さんは去年の12月に亡くなった。
草加の産業界を見ると、今2代目社長ががんばっているのが目立つ。
「今の2代目の人たちはみんな同じような年代。40歳から50歳。みんなネットをやり、人のつながりを作りながら、活動している」
浅井さんがインターネットを利用し始めた時期はかなり早い。ホームページは作成ソフトを使うことなくすべて自作。mixiやfacebook、twitterも早々と利用開始し、活用している。
「ネットがあると広がり方が半端じゃない。いろんな方と知り合う機会も増える。情報の共有や発信もできる」
浅井さんはネットを利用した製品の販売を2001年からスタートした。
顧客は、ホームページの膨大なねじカタログをチェックし「最低ロット200本」「1本単価4円」で注文することができるのだ。これにマニアックな層が飛びついた。
そしてちょっとした流通革命が起きた。
「新しいネジの市場を作っちゃったよ、という部分だけは威張れるかな」
小ロットの顧客はそれこそ世界中に無限に存在している。
こうして、浅井製作所におけるネット販売部門の売上は、長引く不況の中で2001年以来見事な右肩上がりを描き続けている。
ねじなめんなよ
浅井製作所ではねじを利用したさまざまなアクセサリーを創作し製造販売している。
たとえばステンレスリングに外から8本のねじを締め込んだペンダントヘッド。8本のねじの先端が集まる中心部に小さい円形の空白が見える。
「ちょっとでも加工がずれていたら円形にならない。日本の加工業の精度の高さのすばらしさです」
「ねじなめんなよ」が浅井さんのキャッチフレーズ。このセリフが書かれたTシャツやうちわなどを作ったほどだ。ねじをなめていたかもしれないと思いながら工場をあとにした。
有限会社 浅井製作所
草加市谷塚上町449-7
TEL:048-925-4305
http://nejikouba.com